ぜんぜん釣れなくて、釣れそうな気配もなく、ただ惰性でルアーを投げ続けていると、少し離れたところから、じーーーーーというドラグの音が聞こえた。見ると、おじさんの竿が弓なりにしなっている。ドラグの音は鳴りっぱなしで、おじさんは必死でリールを巻いている。かなりの大物だ。すると、隣で釣りをしていた親子がおじさんのところへ近づいていき、間近で見学をはじめた。ぼくは嫌な予感がした。案の定、タモ入れを手伝いはじめた。まずいぞ。たしかにおじさんは苦戦している。でもそれは、釣り人にとって待ちに待った苦戦で、おじさんはタモ入れまで自分の力でやりたいかもしれないのだ。知らない人のおせっかいで魚を逃したら、きっと悔しくて眠れない。タモ入れに手間取っている様子を横目で見ながら、ぼくは1グラムのジグヘッドに、2.5インチのイージーシェイカーをつけて投げ続けていた。アジの気配はゼロだった。結局おじさんたちはタモ入れに失敗した。タモ入れは意外と難しいのだ。