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本のこと

スティーブン・ギルの「The Pillar」を買う③

鳥が勝手にやってきて、鳥の動きでシャッターが押されているわけだから、鳥自身が写真を撮っていると言っても過言ではない。

いまから40年前、宮崎学さんという日本の写真家が、森の中に自動センサーカメラを設置して、動物の死を撮った作品を発表したとき、「あいつは自分でシャッターを押していないから邪道だ」と、陰口を言われたそうです。時代が変わると評価も変わる。宮崎学さんはきっと早すぎたんですね。

早いといえば、20年前のSTUDIO VOICEに、スティーブン・ギルさんのインタビュー記事が載っています。「手で愉しむ写真集づくりのススメ」というタイトルです。

ギルさんは自分で写真集をつくり、自分のレーベルから出版しています。最後の最後までパソコンを使わないそうです。モニターから感知することと、実際に手で触れて眼で見ることは違う、と言っています。事実、「The Pillar」の写真は、モニターで見たネット画像のそれとは、まったく違うものでした。

おわり

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スティーブン・ギルの「The Pillar」を買う②



届きました!すごい!想像していた写真の10倍カッコいい。本のつくりがとても良い。布カバーの質感、本の重み、スバラシイ。そして写真がほんとーーーに良い。スティーブン・ギルさん、ありがとう。丁寧に梱包、発送して、メッセージカードまで同封してくれたPOSTさん、ありがとう。最高です。

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スティーブン・ギルの「The Pillar」を買う①

ついにスティーブン・ギルの「The Pillar」を買いました。いつか買おうと思いながら、なかなか手が出せず。実物を見ずに1万円超えの本を買うのはやはり勇気がいります。しかし、ついにやったぞ。

本はまだ届いていません。買っただけです。ファミコンに匹敵する値段の本を悩んだ末に買い、それが届き、実際に見てどう感じるのか?というドキュメンタリーブログです(なんじゃそれ)。

「The Pillar」を知らない方のために、一応かんたんに説明しておきます。

ロンドンで暮らしていたスティーブン・ギルという有名な写真家が、ある時スウェーデンの田舎に移住します。だだっ広い平原以外は何もないような場所で、いったい何を撮ればいいのか?と思案した結果、ギルさんは平原の真ん中に2本の杭を立てることを思いつきます。もしかしたら空を飛ぶ鳥たちが、杭を止まり木として使ってくれるかもしれないと考えたわけです。

そして片方の杭に、動きを感知して自動でシャッターを切るカメラを設置し、ギルさんはその場を立ち去ります。果たして、2本の杭と無人カメラは、どんな写真を撮ったのか?それが「The Pillar」に収められているのです。ワクワクしますね。

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白鯨を読む④

白鯨のことをぼくは「はくげい」と読んでいました。ところが、作中に「しろくじら」と呼んでいる場面が出てきました。どっちが正解なんだ?ChatGPTには聞かんよ。疑問のままにしておきます。

長かったクジラのうんちく話が終わり、乗組員たちの退屈な説明もようやく終わりました。海に出てから急に文章が難解になってきて、ぼくは何度も遭難しかけました。しかしついに、クジラと戦う場面がやってきた!クジラの群れを見つけるやいなや、3隻のボートで追跡します。手漕ぎです。あっさりとボートは転覆し、あやうく死にかけます。ワクワクするシーンのはずなのに、メルヴィルの文章が詩的で難解だから、面白さよりも、「難しい」が先に来ます。

クジラを追う物語ということで、「白鯨」のことをちょっと舐めていました。もしかしたら、あの「魔の山」よりも難解かもしれんぞ、これは。

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チ。

年末に紅白歌合戦を見て
サカナクションの怪獣を聴いて
漫画『チ。』も買いました。
(ミーハー丸出しの流れ)

チ。の物語の中で
本を読むことの大切さを
説くセリフが出てきて
ぼくは胸が熱くなりました。
それはこんなセリフでした。

「本を読め。
物知りになるためじゃなく
考えるためだ。
無関係に見える
情報と情報の間に
関わりを見つけろ。
その過程に知性が宿るのだ」

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写真論

写真論を見つけるとつい買ってしまいます。
ホンマタカシさんが最近出した
『新しい写真のために』も買いました。

もっと直接的に自分の仕事の役にたつ本を
買って読んだほうがいいんじゃないか?
という心の声よりも
読みたい!知りたい!
という気持ちのほうが
いつも勝るからです。

きっとムダではないはず
そう自分に言い聞かせています。
(ムダでもいいか)

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2025年に買った写真集を振り返る

・その森の子供(ホンマタカシ)
・SWISS(長島有里枝)
・midday ghost(濵本奏)
・TTP(富安隼久)
・洋子(深瀬昌久)
・I had a dream you married a boy(Valerie Phillips)
・照度 あめつち 影を見る(川内倫子)
・CLARITY(永瀬沙世)
・写真がいってかえってきた(佐内正史)
・WINSLOW ARIZONA(Stephen Shore)
・眠る木(上原沙也加)

2025年に買った写真集は11冊でした。あまり買ってないと思っていたけど、そこそこ買っていました。

写真集と聞いて多くの人が想像するのはたぶん、アイドルの写真集だったり、鳥や花の写真集だと思いますが、ぼくが買っているのは写真家による写真集です。何が違うのか?前者は写っている被写体を目当てに買うもので、誰が撮ったのかは重要視されません。しかし、写真家による写真集は、誰が撮ったのかが重要です。被写体ではなく、佐内さんやショアさんが撮った「写真」が見たいのです。

それでいうと、写真家の個性が大事になります。写真ってシャッターを押せばだれでも撮れるし、機械が生み出すモノだから、個性を出すのってすごく難しいと思うんです。それなのに、森山大道さんの写真はパっと見ただけで森山さんの写真だと分かるし、深瀬さん、佐内さん、ショアさんの写真も分かります。すごいことですよね。

SWISS

一番印象に残っているのは、長島有里枝さんの『SWISS』です。

本として完璧なほど美しくて、ページをめくるのがもったいなかったです。写真と音楽の相乗効果はすでに体験済みだったけど、写真と文章の相乗効果はこの本ではじめて体験しました。

本の終盤、自分をバカだと責める長島さんの言葉は、ものすごい純度で胸に迫ってきます。本当にすばらしい本。このクオリティで5,000円は安いと思う。赤々舎さん、ありがとうございます。

その森の子供

ホンマタカシさんの『その森の子供』も良かったです。キノコがこんなにもフォトジェニックだなんて知りませんでした。本のサイズが大きいので、写真は静謐なのに迫力があります。どこか1ページを切り取って部屋に貼りたい衝動を抑えながら、キノコたちの写真を眺めています。

ぼくはホンマさんの写真がずっと好きで、OIL MAGAZINEで連載していた「TOKYO AND ME」の写真も好きでした。こんな風に街をビシッビシッと切り取れたら、さぞ楽しいだろうなあと思います。


WINSLOW ARIZONA

スティーブン・ショアさんがデジカメで、しかもたった1日で撮影した『WINSLOW ARIZONA』を見て、ようやくぼくは「フィルムじゃなくても別にいいやん」という気持ちになれました。手段とは関係なく、良いモノは良いのだ。もう『Uncommon Places』を買う必要はないな。


写真がいってかえってきた

佐内正史さんの『写真がいってかえってきた』も、ぼくの写真集観を変えた1冊でした。手に収まるサイズ感、ざらざらした紙、ハッキリしないプリント、そのどれもが心地よくて、立派な製本だけが正義じゃないことを知りました。

キング・オブ・何気ない風景。だけど、佐内さんの写真だとわかる。被写体が何だろうが、佐内さんが撮ると佐内さんの写真になる。純粋な写真集ではないけど、歌人とコラボした『あなたに犬がそばにいた夏』に収められた佐内さんの写真も良かった。


眠る木

ブログでは紹介していませんでしたが、上原沙也加さんの『眠る木』も、密かに買っていました。

沖縄だけど、沖縄っぽくない、でも言われてみれば沖縄だな、という風景を切り取っていて、どの写真もキマっています。どうやったらこんな場所を見つけることができるのか。写真家の眼ってすごいな。

ショアさんやエグルストンさんの影響を強く感じる、柔らかいニューカラー写真。日本の風景でもニューカラー的な写真は撮れるのだ。


CLARITY

一番わからなかったのは、永瀬沙世さんの『CLARITY』です。

ここで言う「わからない」は誉め言葉で、ぼくはアートブックを買う時、よくわからないものも買うようにしています。自分の幅を広げてくれるから。でも油断すると、つい好みのモノばかり買ってしまうので、部屋の壁に「よくわからないものを買う」と紙に書いて貼っています。子供がそれを見て、首をかしげていました。

CLARITYのページを開くと、博物館に展示されている化石の写真が現れて、次に海の底のような写真が出てきて、最後は岩場を飛ぶ蝶の写真がひたすら続きます。なんだこれは?と思って買いました。

意味はわからないけど、生命や時間の秘密がそこに写ってしまったような、そんな雰囲気があります。永瀬沙世さんという人をぼくは全く知らなかったけど、他の作品も見てみたいです。


照度 あめつち 影を見る

11冊の中で唯一、川内倫子さんの『照度 あめつち 影を見る』だけが古書です。

川内さんの写真は、一見すると淡いトーンや光の印象でやさしいように見えるけど、同時に気持ち悪さもあって、ぼくはそれが少し苦手でした。でも、この写真集は好きでした。特に阿蘇の野焼きの写真が好きです。表紙の写真、良いですよね。

子供はこれを見るなり「これって阿蘇?」と言い当てました。ぼくたち九州人にとって阿蘇は見慣れた土地だけど、川内さんは阿蘇に来たとき、はじめて地球の上に立っているような感覚があったそうです。

今年は佐内さんの『生きている』が復刊されます。それがすごく楽しみです。

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牛乳配達DIARY

牛乳配達DIARY

これはなあ、人に教えたいような、教えたくないような、自分だけの漫画にしたいような、そんな漫画です。買ったのは5年前。トーチWEBで読んで衝撃を受け、出版後すぐに買いました。絵はヘタなのに、上手い。狙ったヘタウマではなく、表現したいことがあって、足りない画力で懸命に描いた結果、だれにも描けない漫画が出来上がった、そんな感じです。しかし絵はどんどん上手くなっていき、最後のほうは自分だけのタッチを手に入れています。牛乳配達のアルバイト経験を漫画にしていて、これを読むと、どんな仕事にも、面白くて詩的なことが起こるとわかります。豊かな感受性さえあれば、どんなことでも漫画にできるとわかります。この本を読むたびに、自分でも漫画を描いてみたいという気持ちになります。

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白鯨を読む③

ようやく船は出航しました。捕鯨船は3年もの長いあいだ、航海を続けることがあるそうです。3年!そんなに長いあいだ世間と切り離され、しょうもないゴシップ記事を目にすることもなく、広大な海の上を漂いながら暮らしたら、人間がすっかり変わってしまいそうです。気になるのはトイレと風呂問題。昔の捕鯨船だと風呂なんて入れませんよね。3年間も?

やっと海に出たと思ったら、クジラに関するウンチクが永遠と続く章に突入して、ぼくの読書スピードは一気に失速しました。モームは「そんなところは読み飛ばせ」と言っていたけど、辛抱強く読みました。クジラにもいろんな種類がいるんですね。エイハブ船長の足を食いちぎったクジラは、どうやらマッコウクジラのようです。現存動物最大の脳を持ち、深海まで潜ってダイオウイカを捕食する唯一のクジラ。知れば知るほど、興味深い生き物です。

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わたしは真悟

わたしは真悟

楳図かずおさんの『わたしは真悟』が全話無料でネットで読めるぞ!というツイートを見て、ひさしぶりに読んだ。やっぱり凄い。以前、ネットカフェで読んだ時も驚いたけど、今の自分が読むと衝撃が倍増した。凄すぎる!絵が上手すぎる。映画的なコマ割り、独自の文体を持ったセリフ、悟のお父さんがうなされるだけのシーンに見開きいっぱい使う豪快さ、どこからどう見ても天才の仕事です。(ちなみに無料期間は11/30で終了しています)

家族で出かけた休日、前夜の興奮をまだ心に残していたぼくは、妻に「いまネットで真悟が読めるよ」と話した。そして、ハニーショップふじいではちみつを買い、その隣のお店で焼き芋を3つ買って、みんなで公園で食べた。妻は真悟を読むだろうか?目の前では若者がスケボーをしていた。背後に広がる芝生の上には、子供連れの家族が寝っ転がっていた。ぼくの焼き芋より、子供の焼き芋のほうが、ねっとりしていて美味そうだった。

焼き芋を食べたあと、子供が行きたがっていた「まんだらけ」に行った。子供はまんだらけの50円コーナーが好きなのだ。そこでお目当てのワンピースを何冊か、自分のお小遣いで買った。ぼくはまんだらけに入るのは初めてだった。店内はとても活気があった。欧米人もいた。懐かしい漫画がたくさん売られていて、ぼくはその中に『わたしは真悟』を見つけてしまった。当時のオリジナルの全巻セットだった。

7千円(子供から見たら大金だ)で漫画を大人買いするぼくを、子供はどう思うんだろう?お父さんだけそんなにお金を使ってズルいと思うのかな?という考えが頭をよぎったけど、子供は「わたしは真悟が買えてよかったね!」と一緒に喜んでくれた。子供は心がキレイなのだ。それは『わたしは真悟』のテーマでもある。

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スクリーンショットは写真か否か?



ヴァレリー・フィリップスさんの『I had a dream you married a boy』が面白いのは、カメラで撮っていないという点にある。どういうことかというと、オンライン上でSkypeやFaceTimeを使い、被写体が映し出された画面をスクリーンショットしているのです。だからスマホ動画の画角だし、画質は荒い。写真的な奥行きや質感もありません。だけど「これでもいいんだ」という自由を感じます。

そもそもスクリーンショットは写真と言えるのか?という話になってくるのですが、デジタル世代の若い人たちからすると、そんなのどうでもいい話かもしれません。立派なカメラで撮られた写真も、Skypeで撮った(?)写真も、どちらも等しくイメージ画像で、むしろ後者のほうに「いいね」がつくかもしれません。(たくさんいいねがつく写真こそが良い写真だと言っているわけではないですよ、もちろん)

写真とはこうあるべきだ、という考え方のように、ホームぺージとはこうあるべきだ、という考え方が、黎明期からつくり続けるぼくたちには強く刻み込まれています。自分が蓄積してきた方針、すなわち理念は大切に守り続けていきたいけど、時には常識から脱却して、自由な発想でつくることも必要だなと感じます。

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白鯨を読む②

まだ上巻の前半、乗り込む捕鯨船をようやく決めたところで、まだ海には出ていません。しかしすでに面白い。ぼくは確信しました、名作とされている古典文学は、どれを読んでも面白い、間違いないです。まったく未知の捕鯨の世界。主人公が乗ると決めた捕鯨船「ピークォド号」の船長、エイハブ船長はまだ登場していません。先の航海で、鯨に片足を取られたそうです。どうやらかなりの変人らしい。

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WINSLOW ARIZONA

winslow arizona

スティーブン・ショア大先生が、たった1日で撮ったという写真集。大先生いわく、被写体に対して1回しかシャッターを切らないという撮影方法を長年続けてきたことで、感覚が極限まで研ぎ澄まされ、1日の中で多くの写真的瞬間を見つけられるようになったそうです。

そのせいで、大判カメラでは間に合わなくなり、この写真集はすべてデジカメ(ニコンのD3X)で撮ったそうです。デジカメ!そして驚くべきことに、デジカメで撮っても、ちゃんとショアさんの写真になっているのでした。

同じニューカラーでいうと、エグルストンさんの写真も好きですが、あちらは作品感が強いので、この『WINSLOW ARIZONA』の作為がまるで無いように見える写真(だけど画面はキマっているという不思議)が、今のぼくにはとてもしっくりきます。最高。

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白鯨を読む①

戦争と平和の余韻から抜け出して
今は『白鯨』に取りかかっています。
独特の文体になれるまでに
すこし時間がかかりましたが
ようやく脳が馴染んできました。

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幻のアフリカ



キャナルでの取材を終えて、MUJIBOOKSでぼやーっと棚を見ていたら、『幻のアフリカ』の異常に分厚い背表紙を見つけて興奮しました。

すでに絶版になっているこの本は、1931年にアフリカ大陸を調査したミシェル・レリスが約2年間、毎日つけていた日記をそのまま本にした内容で、発売当時は発禁になったそうです。理由はよくわからないけど、その事実だけで読みたくなりますよね。

旅行記を好む菅啓次郎さんが衝撃を受けた本として、『悲しき熱帯』と『幻のアフリカ』の2冊を挙げていました。文庫本なのに気軽に持ち歩けない分厚さ。これ1冊でカラマーゾフ上中下と同じ厚みです。本棚に挿すと異様な存在感を放ちます。

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戦争と平和を読む⑪

『戦争と平和』を読み終えました。ぼくの中の文学ベスト5に、間違いなく入ります。めちゃくちゃ面白かった。堅いタイトルで損してるよなーと思っていたけど、読み終えたいま、この大長編にふさわしいタイトルは「戦争と平和」以外考えられない、という気持ちです。登場人物はなんと総勢559人!ワンピースも真っ青です。しかも、大抵の作品は一人ひとりの性格が決まっていて、ジャイアンはジャイアン的な言動や行動しかしないけど、トルストイが生み出すキャラクターは複雑な人間そのもので、その時の状況によって、グラグラと揺れ動きます。それが非常にリアルです。100%の善人なんていないもんね。しかし、どうしてロシアにはトルストイやドストエフスキーのような偉大な作家が何人も出現したんだろう?と考えたのですが、それはたぶん寒いからだ、と結論付けました。

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戦争と平和を読む⑩

フランス軍の捕虜になってしまったピエールが苦しい捕虜生活から解放された時、ぼくは30年前の自分の体験を思い出しました。それは何かというと、アルバイト情報誌anに載っていた楽しいイラストに釣られて応募したテキヤのアルバイト経験で、大きなトラックの荷台に乗せられて、九州各地のお祭りに連れていかれ、風呂にも入れず、朝から晩までビニール人形を売り続けるという過酷な5日間から解放されたとき、ぼくはピエールと同じように自由の喜びを全身で感じました。お金のためにキツイ思いをしたはずなのに、もはやお金なんてどうでもよくなっていました。そしてピエールがナターシャと再会して、これから2人の結婚に向けた話が描かれていくのか、と思いながらぺージをめくると、唐突に「エピローグ」という文字が現れて震えました。ここで終わらせるとは!この後にエピローグが150ページもあるから、本当の終わりはまだ先だけど、物語としての終わりは、あのナターシャの台詞ということでいいんですよね?余韻がすごすぎる・・・。

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戦争と平和を読む⑨

すでに読んだ2巻を何気なく手にとって、ぱらぱらっとぺージをめくったら、ロストフ一家が狩りをする場面に当たりました。本筋とはあまり関係のない話で、全体からすると重要度は低いんだけど、心に残る場面です。この時だけ登場するニコライの叔父が、いかにも自然の中で暮らす高潔な自由人で、話をしながら突然「天地神明!」と叫ぶ変人で、最高でした。

狩りのあと、叔父の家(猟犬が泥まみれのまま書斎に入るような粗野な家)で、採れたてのはちみつ、胡桃、りんご、きのこ、ジャム、ハム、鶏肉、をみんなで食べながら、ギターを弾いて、歌って過ごす平和な夜は、豪華絢爛で世辞にまみれた社交界との対比で、とても魅力的に映ります。やっぱり自然の暮らしっていいな。名脇役は他にもたくさんいるけど、脇役大賞はニコライの叔父で決まりです。天地神明!

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戦争と平和を読む⑧

大江健三郎さんの『新しい文学のために』を読んでいると、ふいに大江さんがトルストイの「戦争と平和」について語り始めた。そこには、ピエールとナターシャが結婚するという、ぼくがまだ知らない大事件がさらっと書いてあって、慌ててぺージを閉じた。間に合わなかった。盛大なネタバレをくらってしまった。思わず(健三郎ー!)と心の中で叫んだけど、それは大江先生のせいではなかった。アンドレイ公爵が死んだ時、うすうす気づいてはいたけどね。ぼくのこのブログも、戦争と平和をまだ読んでいない人にとっては、ネタバレを含みますのでご容赦ください。

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戦争と平和を読む⑦

主要人物であるアンドレイ公爵の死に方は印象的で、まるでトルストイ自身が一度死を経験したことがあるような描き方だった。おそるべし、トルストイ。死は生からの目覚めである、という言葉が強烈に心にくいこんできました。終わりではなく、ただの意識の移行だとしたら、死はそんなに怖いものではないですね。「魔の山」の雪の章(多くの人が作品のハイライトに挙げる有名な章)を読んだときにも感じたけど、どうしてトーマス・マンやトルストイが「そのこと」を知っていて、書くことができたのか、不思議で仕方ありません。ChatGPTにそのギモンをぶつけると、それが文学の神秘なのです、とカッコいい答えが返ってきました。

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